外貨両替機は、即時償却商材の中で最も安い入口で、350万円から買える。だから「利益が300万円余った」法人に最初に提案される。この記事は、この商材の税務の壁が価格の安さと釣り合わないことを、即時償却が通る場合と通らない場合の二つの表で示す。
仕組み
法人が外貨両替機を現物で買い、運営会社と委託契約を結ぶ。運営会社が空港、商業施設、ホテルなどに設置し、外貨の補充、現金の回収、機器の保守を行い、両替手数料から運営費を引いた分を法人に分配する。5年で運営会社が買い取る型が多い。
税務は経営強化税制のA類型で即時償却、と業者は書く。ここに二つの壁がある。
一つは指定事業の壁。経営強化税制は、対象となる事業が指定されていて、両替業(金融業)は含まれていない。両替機を管理する業界内の会社は、「外貨両替業は指定業種から除外されており税制優遇を受けられない」「ディスプレイを付けただけの機器を『外貨両替機能付き情報端末』として即時償却対応と称する業者がいる」「数年後に遡って否認されるリスク」と自社サイトで警告し、確認先として中小企業庁の電話番号を載せている。売り手ではなく、同じ業界の事業者からの警告である。
もう一つは、運営を全部委託する構造が、令和5年度改正の「管理のおおむね全部を委託する設備」の除外と同型であること。
期間
5年の委託契約が標準。両替機の耐用年数は器具備品として5年前後。両替の需要はインバウンドの増減と設置場所の集客に連動し、5年間同じ手数料収入が続く保証は無い。
キャッシュフロー
350万円で購入、年70万円(20%)の分配を5年、満了時に70万円で買取、合計420万円(120%)の例。実効税率33%。単位は万円。
即時償却が認められる場合
| 年 | 投資・売却 | 分配・収入 | 損金(−)/益金(+) | 税効果 | 税引後CF | 累計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0年目 | ▲350 | 0 | 0 | 0 | ▲350 | ▲350 |
| 1年目 | 0 | +70 | ▲280 | +92.4 | +162 | ▲188 |
| 2年目 | 0 | +70 | +70 | ▲23.1 | +46.9 | ▲141 |
| 3年目 | 0 | +70 | +70 | ▲23.1 | +46.9 | ▲93.8 |
| 4年目 | 0 | +70 | +70 | ▲23.1 | +46.9 | ▲46.9 |
| 5年目(分配+買取) | +70 | +70 | +140 | ▲46.2 | +93.8 | +46.9 |
| 合計 | ▲280 | +350 | +70 | ▲23.1 | +46.9 |
同じ条件で即時償却が認められず、5年の定額償却になる場合
| 年 | 投資・売却 | 分配・収入 | 損金(−)/益金(+) | 税効果 | 税引後CF | 累計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0年目 | ▲350 | 0 | 0 | 0 | ▲350 | ▲350 |
| 1年目 | 0 | +70 | 0 | 0 | +70 | ▲280 |
| 2年目 | 0 | +70 | 0 | 0 | +70 | ▲210 |
| 3年目 | 0 | +70 | 0 | 0 | +70 | ▲140 |
| 4年目 | 0 | +70 | 0 | 0 | +70 | ▲70 |
| 5年目(分配+買取) | +70 | +70 | +70 | ▲23.1 | +117 | +46.9 |
| 合計 | ▲280 | +350 | +70 | ▲23.1 | +46.9 |
「月10万円以上」「5年で120%」は販売業者側のブログの表記で、両立しない数字である。ここでは120%を採用した。5年定額の表では毎年70万円の償却と70万円の分配が相殺され、損益はゼロになる。
二つの表の合計は、税引前も税引後も同じ46.9万円である。即時償却が通っても通らなくても、5年間で払う税の合計は変わらない。違うのは初年度に92.4万円の税が減るか減らないかだけで、その92.4万円も2年目以降に返す。
ただし否認されたときに起きるのは、この表の「5年定額」への静かな移行ではない。初年度に即時償却で申告し、税務調査で否認されれば、その年の税92.4万円に加えて過少申告加算税と延滞税がつく。350万円の商材で得られる税引後の上乗せ46.9万円は、加算税で消える。
PLへの効果
即時償却なら初年度に減価償却費350万円と雑収入70万円、2年目以降は雑収入70万円ずつ、5年目に買取70万円の売却益。5年定額なら毎年償却70万円と雑収入70万円が相殺され、損益はゼロで推移し、5年目に買取分だけ利益が出る。
PLへの影響は5年間で合計70万円の利益で、どちらの償却方法でも同じ。年率で見ると税引後2.7%程度である。
査定
税務の論点が価格に対して重すぎる。指定事業の壁は、コインランドリーのような「管理委託かどうか」の実態論ではなく、「両替業は対象事業ではない」という入口の問題である。「情報端末」として申請する手法を業界内の事業者が公然と批判している以上、税務調査でその論点が出たときに立つ瀬がない。
業者の論点は、運営委託先の名前が出ないことにある。外貨の補充と現金の回収を誰がしているのか、その会社の資本金と設立年は。設立3年の販売会社が「否認0件」と書くのは、3年間に税務調査が回ってきていないという意味でしかない。
組成側の視点
350万円という価格は、組成する側から見ると「税理士の顧問先に電話一本で売れる単価」である。決算の1か月前に「利益が300万円余っています」と聞いた税理士が、紹介料を受け取って顧問先に勧める。この商材の販売サイトに「税理士・会計士の先生はチェック」欄があるのは偶然ではない。買い手は、勧めた税理士が紹介料を受け取っているかを聞いてよい。
買ってよい法人、買ってはいけない法人
自社が両替業を営んでいる法人は、そもそも指定事業の外である。それ以外の法人にとって、この商材は「即時償却が通らない前提」で年率2.7%の運営委託商品として評価するしかなく、その利回りのために5年間350万円を拘束する理由は薄い。