節税商材の販売会社に決算書を求めると、たいてい三つのうちどれかが返ってくる。「非上場なので開示していません」「設立3期目でまだ実績が」「上場企業グループなのでご安心ください」。このどれもが、答えになっていない。出資者は営業者の事業に金を預けるのだから、営業者の財務を見ずに出資するのは、決算書を見ずに社債を買うのと同じである。
ファンドの組成側にいたときの手順をそのまま書く。非上場でも、調べる方法はある。
売上が3年で4倍になった会社が危ない理由
まず、よくある誤解を一つ外しておく。販売会社の売上が急伸していることは、安全の証拠にならない。むしろ逆である。
ドローンのレンタル商材で最大手だった会社は、売上が3年で約4倍になり、2022年の税制改正でドローンが封じられると商材をマイニングマシンに乗り換え、さらに伸ばした。その会社は2025年12月に負債約1,445億円で破産手続が始まった。2025年の倒産では最大である。
なぜ急成長が危ないのか。節税商材の販売会社の売上は、新規の出資金で立っている。出資者には設備のレンタル料や分配金を払わなければならず、その原資は設備の稼働益であるはずだが、稼働益が足りなければ新規の出資金から払うことになる。売上が伸びているあいだは分配が滞らないので、問題が表に出ない。新規の出資が止まった瞬間に、分配が止まる。売上の伸びは、この構造では延命の長さを示しているに過ぎない。
出資者が確かめるべきは売上の伸びではなく、分配の原資が稼働益か新規出資かである。それを決算書から読む。
官報の決算公告
株式会社は毎年、定時株主総会の後に貸借対照表を公告する義務がある(会社法440条)。大会社なら損益計算書も含む。公告の方法は官報、日刊新聞、または自社サイトの電子公告で、定款に定めた方法で行う。
実態として、中小企業の多くはこの公告をしていない。違反には100万円以下の過料があるが、実際に科された例はごく少ない。だから「公告が無い」こと自体は珍しくないのだが、節税商材を扱う会社については見方が変わる。出資者から年に何十億円も集める会社が、法律で義務づけられた貸借対照表の公告すらしていないなら、開示する気が無いということである。
調べ方は、インターネット版官報の検索で会社名を引く。直近90日分は無料で、それより前は有料の官報情報検索サービスになる。電子公告の場合は、会社のサイトの「電子公告」「決算公告」のページを探す。見つかったら、次の数字を控える。
- 純資産の額と、資本金に対する比率
- 借入金(短期・長期)の合計
- 「預り金」「前受金」「預り保証金」のような、出資者から預かった金の勘定の残高
- 現預金の残高
貸借対照表だけでも、出資金を運転資金に使っているかはかなり見える。
商業登記で見る変更履歴
登記は誰でも取れる。登記情報提供サービスで法人を検索し、「履歴事項全部証明書」相当の情報を取る。1通数百円で、オンラインならその場で読める。
見るのは現在の状態ではなく、変更の履歴である。
- 商号変更の回数。短期間に2回以上変えていれば、過去の商号で検索し直す
- 本店移転の回数と移転先。レンタルオフィスやバーチャルオフィスへの移転は要注意
- 役員の入れ替わり。代表取締役が1〜2年で交代している、取締役が辞任して補充されていない
- 資本金の増減。減資は欠損の穴埋めであることが多い
- 事業目的の追加。「暗号資産マイニング」「太陽光発電」「航空機リース」と、封じられた商材から次の商材へ目的が追加されていく履歴は、その会社が何で食べているかを示す
登記は過去を消せない。販売ページがいくら綺麗でも、登記には商号変更と役員交代が残っている。
信用調査会社のデータ
帝国データバンクや東京商工リサーチの企業情報は、1社数千円で買える。評点、売上高、利益、従業員数、取引銀行、代表者の経歴が載っている。評点は50点を境に見られることが多いが、節税商材の会社については点数より次の項目を見る。
- 売上高と利益の3期推移。売上が伸びて利益が出ていないなら、分配の原資が稼働益でない可能性が高い
- 取引銀行の数と顔ぶれ。メガバンクや地銀との取引が無く、ノンバンクだけなら借入の調達力が弱い
- 代表者の経歴。前職や関連会社に、過去に行政処分や破綻を受けた会社が無いか
信用調査会社のデータは会社側の申告に基づく部分があるので、決算公告や登記と食い違っていれば、申告のほうを疑う。
出資金が流用されている5つのサイン
決算書が手に入っても、入らなくても、次の5つは確認できる。該当するものが2つ以上あれば、出資金が設備の取得ではなく運転資金に回っている可能性を前提に判断する。
- 新規出資の募集が常時行われている。設備を買うための募集なら、設備の調達計画に合わせて募集は始まり、終わる。年中募集していて、締め切りが毎月延びる商材は、募集そのものが資金繰りになっている
- 分配金や買取保証の原資の説明が「当社の信用」になっている。稼働益、売却代金、保険、第三者の保証のどれでもなく、「当社が責任を持って」と言われたら、原資は無い
- 出資金が営業者の口座に直接入る。信託や分別管理の仕組みがなく、営業者の一般口座に振り込む形なら、設備の購入代金と営業者の運転資金は混ざる
- 設備の取得先が営業者の関連会社である。グループ内で設備を売買していれば、取得価額は営業者が決められる。1台500万円のサーバーが、仕入れ値200万円で関連会社から買われていても、出資者には見えない
- 決算書を求めると「上場企業グループ」「大手との提携」で返す。グループの親会社が出資者に対して何かを保証しているわけではない。保証があるなら保証書を出せるはずで、出せないなら無い
「決算書は出せない」と言われたときの対応
決算書を求めて断られたら、選択肢は二つしかない。見送るか、決算書なしでも許容できる金額まで出資を減らすかである。
後者を選ぶなら、金額の目安は「全損しても本業の資金繰りに影響しない額」であり、節税効果の大きさで決めてはいけない。即時償却で税金が1,000万円減る商材に3,000万円を出して、営業者が破綻すれば、減った税金の3倍の現金が消える。しかも否認されれば税金も戻ってくる。
ファンド組成の実務では、営業者やスポンサーの財務は出資前に必ず見るし、見せない相手とは組まない。出資者である中小企業も同じ立場にいる。「非上場だから」は、見せない理由として成立しない。
審査の順番
登録の確認を済ませたら、次がこの決算の確認である。
- 官報または電子公告で貸借対照表を探す。無ければ、無いことを記録する
- 登記の履歴事項を取り、商号・本店・役員・資本金・目的の変更を時系列で並べる
- 信用調査会社のデータを1社分買い、3期の売上と利益を見る
- 販売会社に決算書と、設備の取得先・取得価額の資料を文書で求める
- 上の5つのサインに照らして、出資金の行き先を推定する
決算が読めたら、現物の所在と管理の確認に進む。